大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和46年(う)3079号 判決

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

当審における訴訟費用は、全部被告人ら全員の連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、被告人全員連名の控訴趣意書及び控訴趣意の補正書並びに控訴趣意補充書、弁護人野村政幸ほか一三名連名の控訴趣意書、同弁護人ほか七名連名の控訴趣意補充書、「弁護人の控訴趣意の説明(一)」、「弁護人の控訴趣意の説明(二)」、「主任弁護人の控訴趣意の説明(三)」、「控訴趣意第一点5(主任弁護人の補充説明)」、「控訴趣意第二点(その一)、(主任弁護人の説明)」、同「第二点その二(主任弁護人の説明)」、弁護人野村政幸作成名義の「弁護人作成名義の控訴趣意書第三点、第四点、第五点、第六点についての控訴趣意補充書」、同「第七点ないし第一一点についての控訴趣意補充書」と題する各書面に記載されているとおりであり、これに対する答弁は、検察官竹平光明作成名義の答弁書に記載されているとおりであるから、これらを引用する。

一被告人らの控訴趣意書中第一(二)三(19)、(20)、(23)、第一(三)五、第二、弁護人らの控訴趣意書中第一点、第二点、「弁護人の控訴趣意の説明(一)」、同「(二)」、「主任弁護人の控訴趣意の説明(三)」、「控訴趣意第一点5(主任弁護人の補充説明)」、「控訴趣意第二点(その一)(主任弁護人の説明)」、「控訴趣意第二点その二(主任弁護人の説明)」について

所論は、多岐にわたるが、要するに、原審は、昭和四六年六月四日国選弁護人六名の辞任申出に正当な理由があると認めてこれを解任したけれども、被告人に検察官と対等の地位を保障せんとする国選弁護人制度の本旨からみて、解任権の行使は、被告人の利益のためにのみ行なわれることを要するものと解すべきところ、本件の解任は、被告人らが実質的に有効な弁護を受ける権利を失うに至ることにつきなんらの配慮もなされずに行なわれたものであるから、解任権のゆ越ないし濫用であつて違法であるのみならず、その解任手続についても、解任理由とされる事実の調査に当たり、適正手続を欠き、被告人らに対しこれと相対する弁護人らと対等な地位と攻撃防禦の機会を保障しない違法があり、又、本来被告人らの利益擁護者たるべき弁護人から被告人らに不利益な事実を報告させたのは、被告人らの利益を擁護するため定められた国選弁護人制度の本旨に反し、弁護士法第一条、弁護士倫理第一条に触れ、憲法第三七条及び刑事訴訟法第一条を否定する違法な措置であり、さらに、原審裁判所は、自ら公平な裁判所としての立場を否定し、当事者の一方である被告人及び弁護人ら両者間の内紛に介入したのは、憲法第三七条、刑事訴訟法第一条を根本的に否定するものであり、そのうえ、その正当理由とされている被告人らの同弁護人に対する暴力、ばとう、ひぼう等についての事実を誤認しているから、原審のなした国選弁護人解任手続は、すべての面で違法であり、憲法第三一条、第三七条、刑事訴訟法第一条、弁護士法第一条に違反するものであり、その後、被告人らのした明示の国選弁護人選任請求に対し、憲法及び刑事訴訟法の解釈を誤り、被告人らがその選任請求権を放棄したものと擬制するなどして、その選任請求を却下したのは憲法第三七条第三項、刑事訴訟法第三六条に違反し、被告人らに弁護人の弁護を受ける権利を失わしめた重大な訴訟手続の法令違反がある、というのである。

(一)、ところで、国選弁護人の選任及び解任権は受訴裁判所の権限であつて、本件のように国選弁護人が辞任を申出た場合でも、裁判所が辞任に正当な理由があると認めて解任の手続をとらない限り、弁護人たる地位を失うものではないと解するのが相当であるから、辞任の申出を受けた裁判所としては、辞任理由を調査すべき職責を負うのは当然であり、その調査に当たつては、定まつた方式や手続の定めはないから、裁判所が相当と認める方法によりこれをなし得べく、その方法として、当該弁護人より辞任申出の理由を聴取し、あるいは、それに関する辞任理由書を徴したにしても、その一事により、裁判所が公平な裁判所としての立場を否定し被告人、弁護人間の内紛に介入したとして所論のように違憲、違法視することはできないのみならず、又、仮にそれら事情聴取の内容が被告人らに不利益であつたとしても、被告人らの公訴事実や犯情に関するものでない限り、直ちに国選弁護人制度の本旨に反するとして所論のように違憲、違法視することもできないと解するのを相当とするところ、記録を調査、検討すると、原審が被告人らのために選任した六名の国選弁護人が、原審に対し辞任を申出るに至つた事情並びに原審が右辞任申出に正当な理由があるとしてこれを解任するに至つた経緯等については、原判決が「国選弁護人再任請求却下の経過と理由」の項で詳細説示するとおりであつて、その辞任事由の調査に当たり、原審は、辞任を申出た国選弁護人らからその事情を聴取したところ、その辞任申出の理由は、被告人らの同弁護人らに対する暴行、ばとう、ひぼう等によるものであつて、もはやこれら被告人に対する弁護活動を行なうことができなくなつたというものであり、この点につきさらに詳細な辞任理由書等を提出させたうえ、被告人らに対しては、その第一〇回公判期日において、被告人らから暴行、ひぼうを受けたということで国選弁護人が辞任したい旨申出ていることを告げ、これに対する意見陳述の機会を与えたところ、被告人らは「何か誤解しているのではないかと思う」旨述べたにとどまり、それ以外の意見は出なかつたことが記録上認められるから、原審のとつた調査手続に所論のような適正手続を欠く違法はないというべきであり、しかも記録によれば、右調査も、辞任事由の有無の調査にとどまり、起訴にかかる犯罪事実の存否にかかわる事項等には及んでいないことが認められるから、それが弁護士の守秘義務等弁護士倫理に触れあるいは国選弁護人制度の本旨に反するものとはいえないし、又、その調査によつて知り得た事情を量刑に反映させた形跡も見当たらないから、原審のとつた措置が予断偏見に基づき所論のような違憲、違法をおかしたものとは到底認められない。そして、原審が、右辞任申出の理由を調査した結果、辞任すべき正当な理由があると認めて、昭和四六年六月四日付で国選弁護人全員を解任したことは記録上明らかであつて、記録を調査、検討しても、右解任事由の事実認定に所論のような事実誤認は認められず、当審における事実の取調べの結果に徴してもこれを動かすにたらず、その認定のような事実関係(その詳細は、原審の昭和四四年六月一〇日にした再選任請求却下決定の理由中に明らかである)のもとにおいては、国選弁護人の辞任すべき正当の理由があると認めてこれを解任した原審の措置は相当であり、右辞任につき弁護人に責むべき点はなく、被告人らの責に帰すべき事由により弁護人が辞任せざるを得ないような事態になつたものであることが明らかであり、被告人らは当該国選弁護人による弁護を受ける権利ひいては国選弁護人の選任を請求する権利を自ら放棄したものということができるから、所論のように、右解任をもつて解任権のゆ越ないし濫用による違法なものであるということはできない。もつとも、当審における事実の取調べの結果によると、被告人小川、同田中らは、弁護人らに対する暴行等の行なわれたという同年五月二五日の被告人及び弁護人らの打合せ会に出席していなかつたことが認められるけれども、記録を調査しても、右被告人両名のそれまでの訴訟活動や対弁護人関係等の実態が他の被告人らと特に別異に考慮されるべき点は全く認められないから、右被告人両名を他の被告人らと同視して同被告人両名に対する関係においても国選弁護人を解任したのはやむをえないものとして是認することができる。又、当審における事実の取調べの結果によると、右打合せ会に出席していた辻村精一郎弁護人は、右暴行等の行なわれたという以前に、すでに所用のため退席していたことが認められるけれども、記録によれば、同弁護人は、他の弁護人らと同一歩調をとつて被告人らの弁護活動にのぞんでいたものであつて、他の弁護人らの辞任申出に同調したものであることが認められ、同じ弁護人の立場にある辻村弁護人としては、他の弁護人らに辞任理由があり、しかもそれが自ら弁護すべき被告人らによつてじやつ起されたものであるとする以上、その辞任申出に同調するのは無理からぬところであつて、同弁護人を解任した原審の措置はやむをえないものとして是認することができる。したがつて、原審の国選弁護人の解任につき、解任権のゆ越ないし濫用はもちろん所論のような違憲、違法は存しない。

(二)、次に、記録によれば、被告人らが国選弁護人を解任された後、再三にわたり国選弁護人の再選任請求をしたが、いずれも却下され、その後は弁護人を附されないまま審理が続けられ、判決に至つたこと、右却下に至るまでの経緯、理由等については、原決判が「国選弁護人再選任請求却下の経過と理由」の項で詳細説示するとおりである。

ところで、本件事案は、必要的弁護の事件ではないから、その点に関する問題はさておき、任意的弁護の事件においては、受訴裁判所が刑事訴訟法第三七条に基づき職権で国選弁護人を附するのは格別、憲法第三七条及び刑事訴訟法第三六条本文による国選弁護人の選任は被告人の自由意思にゆだねられ、その請求によりこれを附するものであるから、もちろんその放棄も許されるところであつて、さきの国選弁護人の解任が被告人らの一方的な責に帰すべき事由に基づくものであるとしてその放棄があつたものと見ることができることは前説示のとおりであるが、記録にあらわれた被告人らの訴訟活動を見ると、法廷闘争なる名のもとに権利行使にしや口して我意を固執し、裁判長の適正、適法な訴訟指揮に服さず、そのため退廷命令ないしは拘束命令を再三再四余儀なくされている状況であることが認められ、これらの経緯に照らすと、到底法規にのつとつた適正な訴訟活動を行なう態度が見られないうえに、はては被告人らの権利擁護のため弁護活動を続けていた国選弁護人を辞任のやむなきに追いこんだものであるから、これらの事情が改善されず、なお継続すると見られる限りにおいては、国選弁護人の選任をしても再び辞任が繰り返されるなどして、受訴裁判所の国選弁護人の選任権の行使を著しく困難に陥れる虞があり、被告人らの恣意的行動により、刑事司法を無用に混乱させることを容認することに帰するものであつて、かかる場合、例え被告人らから国選弁護人の再選任請求があつたにしても、それはもはや権利の濫用として到底受け入れられるべきものではなく、憲法第三七条第三項及び刑事訴訟法第三六条の国選弁護人選任権は、誠実な権利行使を前提としたものであつて、かかる権利の濫用の場合を含まないことは、憲法第一二条をまつまでもなく、現行憲法下における法の精神に照らし自明のことであると解されるところ、記録によれば、原審は、被告人らの国選弁護人再選任請求につき、被告人らの真意を確かめようとして、再三にわたりその機会を与えたが、同人らは、「無条件で弁護人を選任するのが裁判所の義務である」として、これを拒否していたこと原判決の説示しているとおりであつて、記録を精査しても、原審が被告人らに対し不利益な供述を強要した事実は認められず、さきに国選弁護人を辞任のやむなきに追いこんだときの事情はなんら改善されていないから、かかる情況下における国選弁護人の再選任請求は、もはや誠実な権利の行使に当たらない権利の濫用であつて、到底これを受け入れられるべきものではなく、したがつて、これを却下した原審の措置は相当として是認することができるし、以後、弁護人のないまま審理が続けられ、判決に至つた原審の措置はやむをえないものとしてこれを肯定することができるのであつて、所論のような違憲、違法は存しない。

論旨は理由がない。

二被告人らの控訴趣意書中「序として」の部分及び第一(ただし、そのうち、第一(二)三(5)、(12)、(13)、(14)、(19)、(20)、(23)、(24)、第一(三)三ないし七、第一(四)一、二、三を除く)、弁護人らの控訴趣意書中第九点及び「弁護人作成名義の控訴趣意書第七点ないし第一一点についての控訴趣意補充書」と題する書面中「弁護人の控訴趣意第九点の補充」という部分について

所論は、多岐にわたるが、要するに、原審は、被告人及び弁護人らの主張する事前折衝、審理方式についての判断を誤り、統一公判あるいはチヤンピオン方式統一公判の申入れを無視し、検察官よりの情報聴取により、事件に対する予断をもつていて、被告人土谷ら一〇名をAグループ又は広大グループとし、被告人朝日野ら一〇名をBグループ又は山楽グループとして分割審理を強行した違憲、違法がある、というのである。

しかし、弁論の分離併合は、受訴裁判所の合理的判断による裁量にゆだねられ、その決定にあたつて、それに必要な検察官、弁護人らの意見を聴取することはなんら法の禁ずるところではなく(刑事訴訟法第三一三条、第四三条第三項、刑事訴訟規則第三三条等参照)、したがつて、原審も、被告人、弁護人、検察官の弁論の併合に関する意見を聴取していることが記録上認められるけれども、それ以上に、原審の裁判官らが、検察官の立証しようとする事実を調査したり、これを知つていたと認むべき証拠はない。そして、記録によれば、原審は、個別に起訴された被告人らを所論指摘のように被告人土谷らの広島大学学生のグループ(Aグループ又は広大グループと略称した)とその他のグループ(Bグループ又は山楽グループと略称した)の二つに分け、それぞれを併合して審判したにとどまり、被告人及び弁護人らの主張する統一公判あるいはチヤンピオン方式統一公判の審理方式を受け入れなかつたことが明らかであるが、原審の右措置は、実体的真実の発見の要請にこたえるとともに、事件の迅速な処理、審理の円滑適正な進行、法廷の秩序維持、裁判所の設備等の諸点を考慮し、総合的かつ合理的に判断したところによるものと認められる。しかしながら、そのため原審の右のような措置により、必然的に、被告人及び弁護人らの主張するように、事件の真相の究明が困難になるとか、量刑や判断の不統一をきたすというわけのものではなく、所論の憂慮する証拠調の重複や立証の集中的展開に対する障害、訴訟経済上の問題等も、努力と工夫しだいで克服できないわけではないから、原審が右のような総合的、合理的な判断により統一公判の申入れを受け入れなかつたのはむしろ相当であつて、それが裁量権の範囲を逸脱したものとは認めがたく、又、検察官側の情報により事件に対する予断、偏見を持つていたものとはいえず、その故に、被告人らの公平、迅速な裁判を受ける権利や、所論にいう防禦権、弁護人選任権、弁護権などの侵害、ひいては憲法違反や刑事訴訟法違反があつたとは到底考えられない。

なお、所論は、右に関連し、原審の訴訟手続に法令違反があり、かつ、原審裁判長の訴訟指揮等が強権的であつたことなどを非難するが、記録を調査しても、所論の非違は存しない。すなわち、

(1)、所論指摘の門馬裁判長は、単に公判期日の変更に関与したにとどまり、又、同裁判長、熊谷裁判長、船田裁判長らは、いずれも本件の実体的審判に関与していないことが認められるから、同裁判長らの訴訟指揮等を非難する所論は、その前提を欠いて失当である。

(2)、原審は、被告人田中を除くその余の被告人らの各第一回公判期日において、弁護人の附せられないまま被告人田中を除くその余の被告人の人定質問を行ない、同被告人らよりそれぞれ国選弁護人の選任請求が出されているということでその期日を変更し、実質的審理に入らなかったことが認められるけれども、本件事案は必要的弁護の事件ではなく、しかも、原審は、右のように被告人らの人定質問にとどめて実質的審理に入らなかつたのであるから、なんらこれを違法視するにたらない。

(3)、原審は、川野春樹、伊世進、南潔、宗接元信、西側俊夫の検察官に対する各供述調書が公判廷における同人らの各証言とくいちがううえ より特信性があるという理由で、又、吉村正明、重岡寛、塩崎周司、関川春雄、高山茂、錦昭夫の検察官に対する各供述調書が同人らの各所在不明のため証人尋問ができないという理由で、そして、小林靖幸の検察官に対する供述調書が同人の国外居住のため証人尋問ができないとして、それぞれ各供述調書が取調べられたことが認められる。ところで、被告人以外の者の検察官の面前における供述を録取した書面は、刑事訴訟法第三二一条第一項第二号の要件を具備する限り、伝聞証拠に対する例外として反対尋問を欠いても必要性と信用性の情況保障があるとして、憲法第三七条第二項に違反しないとされるものであり、右の点については、川野春樹らの証人尋問調書と対比して、同人らの検面調書に特信性、くいちがいのあることが認められ、所在不明及び国外居住により証人としてそれらの者の取調べができないことについては、検察官の提出した疎明資料によりこれを肯認することができるから、原審のとつた右措置に所論の違憲、違法は存しない。

(4)、被告人朝日野が監置二〇日に処され、その原因となつた公務執行妨害の所為について捜査官による逮捕勾留がなされたとしても、前者は、従来の刑事的、行政的処罰のいずれにも属しないところの、法廷等の秩序維持に関する法律によつて設定された特殊の処罰であるから、さらに同一事実について捜査官による逮捕勾留を受け、刑事訴追されて有罪判決を言渡されたとしても、一事不再理の原則に抵触するものではない(昭和三四年四月九日最高裁第一小法廷判決。刑集一三・四・四四二頁参照)から、もとより所論の公務執行妨害を原因とする逮捕勾留が捜査官の職権濫用には当らないし、右公務執行妨害と事案を異にする本件で処罰されたからといつて、所論の一事不再理の原則に抵触するものでないことはいうまでもない。

(5)、本件の審理に関与した斉川裁判長のとつた訴訟指揮、法廷警察権の行使等についてみても、被告人、傍聴人らの同裁判長の訴訟指揮に従わない異常なまでの異議等に名をかりたしつような抗議、けんそう等の所為に対し、同裁判長が、発言禁止、退廷命令、拘束命令等法廷の秩序を維持するためにとつた措置は、やむをえないものとして是認できるのであり、その訴訟指揮及び法廷警察権の行使につきなんら濫用は認められず、又、原審のとつた措置にもなんら違法のかどは認められないから、原審ないしは原審裁判長のとつた措置に、所論の指摘する弁護人の権利を奪いこれを辞任に追いこんだとか、弁護権、あるいは、被告人らの、弁護人との秘密交通権、基本的人権、防禦権、反対尋問権等を侵害したものとは認めることができないし、又、一般人の公判期日における公判傍聴を禁止した事実も認められないから、裁判公開の原則に反したことはなく、その他記録を調査しても、原審裁判長及び原審のとつた措置等に所論のような違憲、違法、不当なものは認められない。

以上のように、被告人及び弁護人らの主張する統一公判の要求を採らず、いわゆる分割審理を実施した原審の措置は、結局相当であつて、所論の指摘するような憲法、刑事訴訟法に違反する点はない。論旨は理由がない。

三弁護人らの控訴趣意書中第七点及び「弁護人作成名義の控訴趣意書第七点ないし第一一点についての控訴趣意補充書」と題する書面中第七点について

所論は、原審裁判長において、被告人田中、同朝日野、同小笠原、同林に対し黙秘権を告知せず、しかも、国選弁護人の解任及び再選任請求に関連して、被告人らに不利益な供述を強要し、その供述をしないことを理由に国選弁護人に対する態度を改めないとしてその再選任請求を却下したものであつて、これは憲法第三八条及び刑事訴訟法第二九一条第二項に違反する、というのである。

そこで、案ずるに、裁判所が被告人に黙秘権を告知しなかつたとしても、憲法第三八条に違反するものでないことは最高裁判所の判例(昭和二三年七月一四日大法廷判決。刑集二・八・八四六頁)とするところであるうえ、記録を検討すると、原審裁判長は、被告人田中に対しては黙秘権のあることを告知していることが認められるが、所論の指摘する他の被告人に対してはその告知のあつたことをうかがわせる公判調書の記載はないけれども、もともと黙秘権を告知したかどうかは、それが公判調書の必要的記載事項ではないので、これからは明らかでないが、記録によると、黙秘権の告知がなかつたとする異議の申立てもなく、しかも、同被告人らは、すでに人定質問の段階において氏名、年齢、本籍、住居、職業等を黙して答えなかつたばかりでなく、被告事件に対する陳述も黙して答えなかつたことが認められるから、これらの事実から見て、通常行なわれる刑事訴訟法第二九一条所定の黙秘権等の告知手続がとられたものと推認することができ、その所論は前提を欠くのみならず、すでに被告人らが右のように黙秘権を行使している以上、単にその告知がなされなかつた一事をもつて直ちに被告人らの防禦権の行使が妨げられたとはいえないから、その訴訟手続上のかしはいまだもつて判決に影響を及ぼす違法とはいえないというべきである。そして、原審が国選弁護人を解任し、その再選任請求を却下したことについてはなんらの非違はなく、又、原審裁判長が、被告人らに対し不利益な供述を強要した事実のないことについては、いずれもさきに判断したとおりである。論旨は理由がない。

四被告人らの控訴趣意書中第一(二)三(5)、(12)、(13)、(14)、第一(三)三及び弁護人らの控訴趣意書中第一〇点並びに「弁護人作成名義の控訴趣意書第七点ないし第一一点についての控訴趣意補充書」と題する書面中第一〇点について

所論は、要するに、本件事案は、集団的反権力闘争であつて、本件犯罪事実を手段とする政治的目的ないし動機に基づいて行なわれた政治犯罪であり、又、憲法第三章が保障する国民の権利が問題となつている事件に当たるから、憲法第八二条第二項により裁判の絶対的公開が要請されるところ、原審は、必要もないのに広島地方裁判所等で非公開の証人尋問を実施し、鳥取地方裁判所米子支部における証人尋問の際には、傍聴人二人の傍聴を禁止し、各証人尋問に立ち会つた被告人らに退廷命令を発してその反対尋問権を侵害するなどしたので、右は憲法第三七条第一項、第二項、第八二条、刑事訴訟法第一条、第二八八条に違反したものである、というのである。

そこで、所論にかんがみ、記録を調査すると、原審は、被告人土谷を含む一〇名の被告人らのグループにつき、広島県内に居住する証人吉村正明ほか八名の証人尋問を広島地方裁判所において実施する旨の決定をして、昭和四五年八月二六日、二七日の両日にわたり同裁判所で、証人川野春樹、同伊世進、同藤田雅史の各尋問を実施し、他方、被告人朝日野を含む一〇名の被告人らのグループにつき、京都市、福岡県、鳥取県等に居住する証人南潔ほか七名の証人尋問をその所在地の裁判所で実施する旨の決定をして、同年一一月二〇日京都地方裁判所において、証人南潔、同宗接元信の、同年一二月二日福岡地方裁判所において、証人今林清貴、同廣瀬和彦の、同月五日鳥取地方裁判所米子支部において、証人三嶋國夫の各尋問を実施したこと、それらの各証人尋問に立ち会つた被告人らは、裁判長の命ずる訴訟指揮に従わなかつたため、退廷命令等の執行を受けたが、同被告人らの弁護人らはいずれも在席し、右各証人に対する反対尋問の機会が与えられ、反対尋問も行なつていること、右米子支部における証人尋問の際、これを傍聴しようとした傍聴人二人に対し、裁判長は、非公開であるから退席するよう再三うながしたが、応じなかつたため、傍聴人二人に対し退廷拘束命令が執行されたこと、右各証人尋問調書は、その後の公判期日に公開の法廷においていずれも証拠として取調べられていることが認められ、他方、記録を精査しても、被告人朝日野が退廷拘束命令の執行を受けた際、所論の暴行、傷害等を受けた事実は認められず、又、原審の右公判期日外の証人尋問の決定及びその証拠調べ並びに右各証人尋問調書の取調べ等に対し、被告人及び弁護人らから異議の申立てをしたことは全く認められない。以上の事実に照らすと、原審の右各証人尋問の手続は、公判期日外の証人尋問手続によつたものであつて、それ自体は対審手続でないから、憲法第八二条所定の裁判公開の原則は適用なく、その証人尋問は非公開のもとで行なわれるものであるから、原審裁判長が傍聴人の傍聴を禁止したのは当然の事由であつて、なんら違法のかどはなく、しかも、右各証人尋問調書は、その後の公判期日において適法に証拠調べがなされていること右のとおりであるから、裁判公開の原則に反していないというべきである。又、記録によれば、右各証人は、いずれも本件闘争に参加若しくは機動隊員としてその規制に当たつたものであつて、同証人らの住居、職業、年齢、事案の性格及びこれに対する関連の程度並びにその重要性などを勘案したうえ、必要と認めて公判期日外の証人尋問を決定、施行したと解される原審の措置になんらの非違はなく、そして、被告人らが右のように裁判長の訴訟指揮に従わないで退廷させられた場合には、被告人ら自らの責において反対尋問権を喪失したものというべきであるが、他方、本件においては、右のように被告人らの弁護人が終始各証人尋問に立ち会い、反対尋問権行使の機会を与えられ、かつ、反対尋問権を行使しているから、被告人らの反対尋問権は弁護人によつて行使されているものというべきである。したがつて、公判期日外の証人尋問を実施した原審の措置に所論の非違は存しない。論旨は理由がない。

五被告人らの控訴趣意書中第一(二)三(24)、第一(三)四、六、第三について

所論は、要するに、被告人らの本件所為は、日米安全保障条約の破棄及び沖繩の即時無条件返還を目的として行動したものであるから、全面的に正当であつて、超法規的違法性阻却事由があり、又、本件当日における被告人らの行為に仮に違法な点があつたにせよ、機動隊員が職権及び逮捕権を濫用して暴力的弾圧に出たため、やむなく本件所為に及んだものであるから、刑法第三六条、第三七条が適用されるべき場合に当たるのに、原審は、超法規的違法阻却事由についての判断を回避するため、被告人らの国選弁護人再選任請求を拒否し、被告人らの主張、立証を許さなかつたのみならず、被告人らに最終陳述の機会を与えず、弁論再開申請を却下して判決をしたから、これらの点で、原審の措置には違憲、違法、訴訟手続の法令違反及び法令の解釈適用の誤り、事実認定の誤りがある、というのである。

しかし、被告人らの国選弁護人再選任請求を受け入れなかつた原審の措置になんら非違の存しないことについてはさきに判断したとおりであつて、記録によれば、被告人らは、国選弁護人を再選任しなければ本案に関する一切の主張、立証を行なわないとの態度を固持していたことが認められ、しかも、国選弁護人の解任後は弁護人の選任がなかつたのであるから、被告人らの主張、立証を禁圧した形跡の認められない本件において、原審が被告人らの主張、立証のないまま、かつ、第一五回公判期日において、被告人らが裁判長より反証の申出をするように促されながら、国選弁護人選任の要求を繰り返し、裁判長の発言禁止、着席命令等の措置に従わないため、全員に退廷が命ぜられ、被告人らに最終に陳述する機会が与えられないで結審に至つたのもやむをえないところであつて、当審における事実の取調べの結果に徴してもこれを動かすにたらず、原審の右措置に所論のような違憲、違法があるということはできない。又、例え、被告人らの本件所為が所論の動機、目的に基づくものであつても、それが原判示のような過激な手段や態様をとるとき、兇器準備集合、威力業務妨害、公務執行妨害罪を構成し、わが国の現在の法秩序、政治体制のもとでは到底許されないところであり、所論の内容につき検討しても、被告人らの所為が所論の超法規的違法阻却事由、違法性阻却事由あるいは責任阻却事由等に該当すべき要件を充足していたものとは認められず、その立証をまつまでもなく、違法性及び責任性を阻却されるべきものでないことは明らかであり、その他原審のとつた措置に所論の非違は存しない。論旨は理由がない。

六被告人らの控訴趣意書中第一(二)(三)(24)並びに弁護人らの控訴趣意書中第八点及び「弁護人作成名義の控訴趣意書第七点ないし第一一点についての控訴趣意補充書」と題する書面中第八点について

所論は、原審が、被告人らの冒頭陳述書において述べている被告人らの本件所為の目的の正当性、手段の相当性等について十分な審理を尽さず、かつ、この冒頭陳述書に、事実に対する反対立証及び情状に関する事実についての証拠申請書並びに文書提出命令申請書等を添付してした弁論の再開申請を却下して、被告人らに有利な違法阻却事由、責任阻却事由の有無や、被告人らの本件所為に至つた動機、目的の正当性、手段の相当性、背景事情等に量刑に関する事実等について十分な審理を尽さなかつた点において、憲法第三七条第二項、刑事訴訟法第一条、第二九八条第二項、刑事訴訟規則第二〇八条に違反する審理不尽による訴訟手続の法令違反がある、というのである。

そこで、記録を検討すると、被告人らは、原審における弁論の終結後において、所論指摘の冒頭陳述書並びに証拠申請書及び提出命令申請書を添付して弁論の再開を請求したことが認められるけれども、他方、被告人らは、弁論終結前、検察官の立証が終つた段階で、原審裁判長から、再三再四にわたり、反証等の申出をうながされているにもかかわらず、これに応じなかつたため、結審されたものであること、原審は、右弁論の再開請求を受け入れなかつたことが記録上認められ、弁論の再開請求を受け入れなかつた理由については記録上明らかでないけれども、およそ、弁論の再開をするかどうかは一つに受訴裁判所の裁量に属するものであるところ、右冒頭陳述書の記載事項や証拠申請書等に掲げる証拠の標目及び立証趣旨等を勘案し、かつ、原審における審理の経過及びその実情、本件事案の態様、罪質等を考慮すると、原審は、被告人らの弁論再開の請求につき、その必要性がないものとして弁論の再開をしなかつたものと解され、しかも、弁論再開請求の理由や原審における審理の経過等に照らし、はたまた、当審における事実の取調べの結果に徴しても、原審が弁論の再開をしなかつたことにつき裁量の範囲を逸脱したものとは到底解されないから、原審の右措置に所論の違法はなく、又、被告人らの本件所為の目的の正当性、手段の相当性、違法性及び責任性阻却事由の有無等について被告人らの主張、立証を許さなかつた原審の措置になんら非違の存しないことについては、さきに判断したとおりである。論旨は理由がない。

七被告人らの控訴趣意書中第四及び控訴趣意補充書中補充第一点、補充第二点、弁護人らの控訴趣意書中第三点ないし第六点並びに「弁護人作成名義の控訴趣意書第三点、第四点、第五点、第六点についての控訴趣意補充書」と題する書面について

所論は、多岐にわたるが、要するに、原判示の各事実は、いずれも証拠上認められず、ことに、被告人伊與田については原判示第一、被告人林については原判示第三の各事実を認めるにたりる証拠はなく、被告人野については、同人の自供調書は、不当に長く拘禁されたのち、しかも、別件で勾留中保釈されると同時に本件で逮捕、勾留されたため、永久に自由を得ることができないのではないかという恐怖心、危機感にかられた精神的拷問状態のなかで作成された任意性のないものであるのに、これを唯一の証拠として事実を認定した違法があり、又、原判示第一の鉄パイプ、角材、丸棒、石塊は、兇器に当たらないうえに、それらの物は、おおむね機動隊員の違法、過剰な規制の際受けるであろう生命、身体に対する重大な攻撃に対し、防衛のために所持していたものであつて、このことは、原判示第一の集団が現実に機動隊の攻撃を受けるや、右物件を放棄してひたすらに逃げ、防衛的にすらそれらの物件を使用しなかつた事実に照らしても明らかであり、同集団には全く共同加害の目的はなく、ことに、本件のように公務員たる機動隊の違法な公務執行に対する抵抗ないし排除の目的でこれら物件を所持する場合は、兇器準備集合の加害目的から除かれるべきものである、又、原判示第一の千数百名の学生らが線路上にとびおりる以前に、東京駅第三ホームに発着すべき電車の通過運転の措置がとられるに至り、その後、神田駅において東京駅に向けて発車すべき山手線外廻り一六二九電車の運転を一時停止したため、これに乗つていた数十名の学生が線路上におりて東京駅に向かい行進し、他方、東京駅第三ホームにいた原判示第一の集団は、当初の目的にそい電車で新橋駅に向かう予定であつたところ、すでに右のように電車の通過運転の措置がとられていたため、やむなく新橋駅までの線路上を、威力業務妨害の意思もなく、行進したものであつて、可罰的違法性はなく、又、同集団が線路上にとびおりたことと、国鉄の電車等の運行による輸送業務が妨害されたこととの間には因果関係もない、そのうえ、国鉄の輸送業務は公務であるから、刑法第二三三条、第二三四条所定の「業務」には含まれないと解すべきである、そして、本件の場合、兇器準備集合と威力業務妨害又は公務執行妨害とはそれぞれ包括して一罪であり、前者は威力業務妨害又は公務執行妨害の罪に吸収されて後者の一罪であるから、原判決には、証拠不十分なまま事実を誤認し、法令の適用を誤つた違法がある、というのである。

そこで、所論にかんがみ、まず、原判決挙示の被告人野の検察官に対する供述調書の任意性について検討すると、記録によれば、同被告人は、昭和四四年九月九日広島地方裁判所に起訴された兇器準備集合、建造物侵入(不退去)、公務執行妨害被疑事件により同年八月一八日ころ現行犯逮捕され、引き続き勾留中、同年一一月四日保釈されたが、同日本件で逮捕次いで勾留され、右供述調書は同月一二日に作成されたものであることが認められるが、広島地方裁判所に係属した右被告事件の内容等に、本件事犯の内容等をあわせ検討すると、同被告人に対する右逮捕、勾留が前後引き続いて執行されたものであるとしても、それぞれ別個の適法な理由により勾留されたものであるから、同被告人に所論のような恐怖感を与えたものとは考えられないところであるうえ、それが不当に長い拘禁であるとは認められないし、右供述調書の作成経過等に関する同被告人の原審公判廷における供述部分は、かなり誇張した点も認められるなどしてその供述をそのまま信用しがたく、同供述によつても、検察官の同被告人に対する違法、不当な取調べがあつたものとは認められないうえに、右供述調書の形式、供述の経過及びその内容等を検討しても、その供述部分は、自然であつて、矛盾そごする点はなく、任意に供述されたものであることが認められるから、右供述調書の任意性及び特信性等に疑いをいれる余地はない。

そして、右供述調書を含む原判決挙示の関係証拠(ただし、そのうち、被告人小川の検察官に対する供述調書は、司法警察員に対する供述調書の誤記と認められる)によると、原判示第一、第三の各事実は、被告人伊與田が鉄パイプを所持していた点を除き、被告人野が原判示第一の犯行に加わつていたことを含めて、優にこれを肯認することができるのであつて、当審における事実の取調べの結果に徴しても、これを動かすにたらず、原判決の採証、認定に所論の違法は存しない。もつとも、右関係証拠によると、被告人伊與田は、広島大学の全共闘議長であり、同大学の中核派の最高責任者として、同大学の学生らを組織して原判示冒頭の闘争行動に参加するため上京し、当日、同被告人の所属する広島大グループは、東京駅第三ホームの他の中核派と合流し、これらの者と共に原判示第一の犯行をおかしたものであること、その際、同被告人は、右第三ホームにおいて、ヘルメツトをかぶり、タオルを首に巻き、軍手を着用してアジ演説を行なつていることが認められ、そのアジ演説の時期は必ずしも明らかではないが、右アジ演説をしているときの周囲の状況、動向等から見て、少なくとも当日の午後四時以降であることがうかがわれるところ、そのころ以降には、国鉄側の退去要請に対し同集団は全く応ぜず、他方、同ホーム階段下には立入禁止の措置もとられたことが認められ、同集団のなかから同ホーム外に出た者のあることはうかがわれず、しかも、右アジ演説の時期と原判示第一の犯行時が接着し、その場所が同一であることなどに、同被告人の地位、役割等を勘案すると、同被告人は、その所属する広島大グループの合流した他の中核派の者と行動を共にしたものと認定せざるをえない。しかしながら、同被告人が原判示第一の犯行に加わつていた際、鉄パイプを所持していた事実は、これを肯認するにたりる証拠がないから、原判決はこの点において事実の誤認があるけれども、右関係証拠によると、東京駅第三ホームには、多数の学生らが集合するとともに多数の鉄パイプ、角材などの兇器が準備搬入され、これが集合した学生らに配布され、同被告人は、これら兇器の準備のあることを知つて集合したものであることが認められ、これと兇器を所持して集合する罪とは犯行の態様を異にするだけで、両者は同一法条に属し、その罪質及び法定刑が同一であるから、右の誤りは、判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認ということはできないので、原判決を破棄する理由とはならない。

次に、原判示第一の鉄パイプ、角材、丸棒、石塊は、原判決挙示の関係証拠によつて認められるその形状、機能、数量、これらを所持するに至つた目的、集合した人数、行為の態様等から見て、刑法第二〇八条の二所定の「兇器」に当たることは最高裁判所の判例(昭和四五年一二月三日第一小法廷決定。刑集二四・一三・一七〇七頁参照)の趣旨に照らし明らかであり、しかも、右証拠によれば、原判示第一の集団は、予想される機動隊の規制を突破するため、同隊員を殴つたり突いたりする目的で、右鉄パイプ等を携帯し、かつ、その際の投石用に石塊を携え、そして、現に適正な規制に当たつた機動隊員に向かつて投石していることが認められるから、これら兇器が機動隊の規制に対する防衛目的のため所持していたというよりは、むしろ積極的な攻撃用のために所持していたものといえるから、被告人らを含む原判示第一の集団に共同加害の目的がなかつたとはいえない。そして、刑法第二〇八条の二所定の加害目的は、「他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加ふる目的」があればたり、加害目的の対象ないし態様について所論のような制限を加える法文上の根拠はないから、その「他人」のなかに公務員たる機動隊員も含まれることについては疑義がなく、したがつて、同条の加害目的に、公務員の公務の執行に対する抵抗、排除の目的を有する場合を除外する理由はない。

又、原判決挙示の関係証拠によると、東京駅第三ホームの集団は、千数百名の多数にのぼり、そのため電車等の運行による危険性が生じたため、国鉄側による退去要請や電車の同ホーム通過等の措置がとられたところ、当日、午後五時一七分ころに至り、神田駅ホームの学生集団が線路上におりて東京駅に向かつたことにより、神田駅における電車の運行は中止され、午後五時三二分ころ東京駅通過の全線の電車等の運行も中止され、同集団も右第三ホームの集団に加わり、午後五時三六分ころ、同ホームの集団は、運行中止の原因や運行再開の見とおし等を確かめるようなことはなんら念頭におかずに、線路上にとびおりて、気勢をあげ、新橋駅方向に行進したので、そのときから午後六時一五分ころまでの間、両駅間の電車等の運行は停止されたが、それは、同集団が線路上にとびおりて両駅間に滞留したことによるものであることが認められ、被告人ら右集団が線路上に立ち入る緊急な必要があつたものとは認められないし、当初の神田駅における電車の運行中止が同駅から線路上を東京駅に向かう学生集団らの行動に端を発したものであるとしても、原判示第一の電車等の運行停止は、原判示第一の集団が東京駅第三ホームから線路上にとびおりて同判示のように線路上に滞留したことにより、被告人ら集団の行為自体国鉄の電車等の運行業務に対し、新たな障害となる状態を発生させたものであつて、被告人らの威力業務妨害の故意、妨害の事実、因果関係を認めるに十分であり、それらの所為に可罰的違法性がないとはいえない。

そして、国鉄の行なう事業ないし業務が刑法第二三三条、第二三四条の「業務」に当たることは最高裁判所の判例(昭和四一年一一月三〇日大法廷判決。刑集二〇・九・一〇七六頁参照)とするところであつて、これと同趣旨に出た原判決は相当であり、又、本件における兇器準備集合罪と威力業務妨害罪を包括一罪でないと解した原判決の説示は相当としてこれを肯定することができるし、兇器準備集合罪と公務執行妨害罪並びに威力業務妨害罪とは、保護法益、行為の手段、態様を全く異にし、いずれも併合罪の関係にあると解すべきである(昭和四三年七月一六日最高裁第三小法廷決定。刑集二二・七・八三〇頁参照)。したがつて、兇器準備集合罪と威力業務妨害罪を観念的競合と解した原判決はこの点において誤りがあるけれども、これを併合罪と解しても処断刑に影響を及ぼさないから、原判決を破棄する理由とならない。

以上のように原判決には所論の審理不尽、事実誤認、法令適用の誤り等による違法は存しない。論旨は理由がない。

八被告人らの控訴趣意書中第一(三)七、第一(四)一、二、三、第五及び控訴趣意補充書中補充第三点ないし第五点、弁護人らの控訴趣意書中第一一点及び控訴趣意補充書について

所論は、要するに、原判決の量刑は、被告人らが訴訟当事者として、正当な権利行使に当たる統一公判の要求等に関する訴訟中の態度を重い量刑事由とした違法があり、又、訴訟中の態度については、法廷警察権及び法廷等の秩序維持に関する法律によりすでに処罰されているのに、再びこれを量刑事由に加えたのは、二重の処罰に当たるうえに、被告人土谷、同小笠原、同野らに対しては、別件の起訴があることをもつてこれを有罪と推認し、重い量刑事由とした違法があり、そのうえ、被告人黒島、同朝日野に対する保護観察付き刑の執行猶予は、保護観察が「善行を保持すること」を要件とし、執行猶予の取消が単に善行保持という主観的判断にまかされている点において、罪刑法定主義を定めた憲法第三一条に違反するのみならず、本件のごとき政治的事件の被告人に保護観察を付するのは、同人らの政治的行動ないしはそれへの参加が善行保持に反するものとしかねないから、同人らの思想、表現の自由等をおかす違憲のものであり、しかも、被告人土谷については、量刑事由として認定した事実に事実の誤認がある、というのである。

ところで、本来刑の量定は、当該犯罪の罪質、犯行の動機、手段、方法、結果等から見た犯行の軽重度、被告人の生育歴、学歴、職歴等から推認される人格的素養、性格、その前科、前歴、日常の生活的態度、犯行に対する考え方(自省、自戒、改悛の有無、程度等に、被害の回復ないしは弁償等)、犯行後の事情などから看取される再非行可能性の有無、程度等諸般の事情をふまえて行なわれるべきものであり、真相が究明される場である公判審理の過程で被告人らの性格的実態が吐露されることがあり、かくして現実化した性格的実態を裁判に反映すべきは当然であつて、原判決は、このような観点から被告人らの法廷での態度、言動等を量刑事情として評価、考慮したものであることが看取され、それを審判の対象とし、あるいは報復的に量刑に加味したものであるとは到底認められない。又、法廷警察権及び法廷等の秩序維持に関する法律による処罰は、刑事法に基づく処罰とは異なる特殊の処罰であつて、両者の処罰は二重の処罰に当たらないことはさきに判断したところに徴し明らかであり、被告人土谷(記録によれば、同被告人は、昭和四四年一〇月一四日公務執行妨害罪で広島地方裁判所に公訴を提起されたことが認められ、同起訴は、本件犯行後のことであり、原判決がその「保釈中に本件犯行に出た」ものであると説示したのは明らかに誤りであるけれども、その誤りは、いまだ判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない)、被告人小笠原、同野に対する別件の起訴を有罪と推認してこれを重い量刑事由とした形跡はうかがわれないのであつて、原判決の量刑に所論の違憲、違法があるとは到底解されない。そして、本件事案が仮にいわゆる政治犯罪であるとしても、本件は、被告人らの思想、信条等を処罰の対象としたものではなくして、同人らの現実におかした行為そのものをその対象とするものであつて、被告人黒島、同朝日野を保護観察付き刑の執行猶予に処するにつきなんら障害となる事由はなく、保護観察そのものは刑と異なり保安処分の一種とみられるから、その効果をあげるため所論の善行保持が要請されるのは当然の事理であつて、それが思想、信条、表現の自由等を奪うものとはいえないから、それを付したからといつて所論指摘の憲法の条項に触れるものではない。

そこで、記録を調査し、当審における事実の取調べの結果をあわせ検討して認められる本件犯行の動機、経緯、態様、結果、罪質、被告人らの果たした役割、犯行前後の事情等を考慮すると、原判決が「量刑の事情」の項で詳細に説示するところ(ただし、被告人伊與田が原判示第一の犯行の際鉄パイプを所持していなかつたこと、被告人土谷の本件犯行が別件の保釈中に行なわれたものではないことについてはさきに判断したとおりであるが、これらの点を考慮しても、同被告人らに対する原審の量刑に影響を及ぼすものではない)は、おおむね相当として是認することができるのであつて、被告人らの各刑責は重大であり、被告人らに対する原判決の量刑が不当に重いものとは到底認められない。論旨は理由がない。

(公訴棄却等の申立てに対する判断)

九なお、弁護人野村政幸及び同林宰俊は、当審において、原判決を破棄のうえ、本件公訴を棄却若しくは免訴の裁判を求める、と申立て、その理由として、司法行政の最高機関である最高裁判所は、昭和四七年七月六日及び七日の両日にわたり、刑事事件担当裁判官会同を開催し、その会同において、「集団事件の処理に関し考慮すべき事項」を協議事項の一つとして取り扱い、そこに出席した同裁判所長官も発言し、又、同裁判所事務局刑事局長は、右協議事項の説明に当たり、本件についてした原審の昭和四六年六月一〇日付決定を取りあげ、国選弁護人の辞任及び解任問題等に関する事実認定、法律適用の両面にわたり説明したうえ、これを協議に付したものであつて、これは最高裁判所による本件裁判に対するようかい、干渉であり、裁判官の独立を侵害するものであり、かつ、上告審の裁判長たるべき最高裁判所長官が、下級審たる当審に係属中の具体的事件につき現状の紹介、報告を受けてこれを協議することは、本件の上告審における審理以前に一定の判断をいだくものであつて、当該被告人は事実上三審制度による公平な裁判の保障を侵害されたものというべく、かかる被告人らの公平適正な裁判所の裁判を受ける憲法上の権利の侵害は異常な事態であるから、もはや手続の進行は許されず、直ちに審理を打ち切るべきである、というのである。

そこで、検討すると、最高裁判所は、所論指摘の刑事事件担当裁判官会同を開催し、その席上で、最高裁判所長官のあいさつ、刑事局長の指摘のような説明が行なわれ、協議がもたれたことは、所論裁判所時報により明らかなところである。

しかし、もともと刑事事件担当裁判官会同は、その会同員である刑事事件担当の裁判官が、山積する刑事事件処理上の諸問題をとらえて、その現状を理解し、互いに日ごろの研究と経験に基づく意見を交換し研究することによつて実務上の識見や能力の向上を図るとともに、その協議の結果を実務の参考に供することを目的とするものであつて、最高裁判所はこれを主催するにとどまり、それ以上に出ないのであるから(裁判所法第八一条、第八〇条等参照)、右会同において、刑事局長が、国選弁護人の辞任、解任等をめぐる諸問題の一事例として、すでに決定告知されて公表された所論指摘の原審の決定を取りあげてこれを紹介し、これにつき会同員による意見交換及び研究が行なわれたとしても、そのこと自体はなんら司法権の独立を侵害するとか、裁判官の独立を侵すというものではなく、又、所論指摘のように三審制度による公平適正な裁判所の裁判の保障を破るものでないことはいうまでもない。他方、刑事裁判は、良心に従い独立してその職権を行なう裁判官が、憲法及び法律にのみ従つて公平適正にこれを行なうものであつて、右会同の成果を参考にすることはありえても、これに左右されることは全くない。したがつて、被告人らの公平適正な裁判所の裁判を受ける憲法上の権利が右会同によつて侵害され若しくは侵害される虞は全く存しないから、弁護人らの右主張は失当であつて、採用の限りでない。

よつて、刑事訴訟法第三九六条により本件各控訴をいずれも棄却し、当審における訴訟費用の負担につき同法第一八一条第一項本文、第一八二条を適用して、主文のとおり判決する。

(瀬下貞吉 金子仙太郎 小林眞夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例